【清水 vs 名古屋】 ウォーミングアップコラム:愛する清水での引退を決断した兵働昭弘。果たせなかった夢を後輩に託す。

2018年11月9日(金)


今週は、清水サポーターにとって嬉しいニュースと残念なニュースの両方があった。

嬉しいニュースとは、北川航也がA代表に、立田悠悟がU-21代表に選出されたこと。週明けには滝裕太がU-19日本代表から帰ってきたばかりで、3人とも県内出身でジュニアユースから下部組織で育った選手ということが地元ファンにとって大きな喜びとなっている。

一方、残念なニュースとは、36歳のベテランMF・兵働昭弘(写真)が現役引退を発表したことだ。
兵働は静岡県出身ではないが(千葉県出身)、左足の多彩なパスや献身的なプレー、さらに人柄の良さもあって清水サポーターに本当に愛されている選手。2005年に筑波大学を卒業して清水に加入して1年目から活躍し、09年、10年には責任感の強さを買われてキャプテンを務めた。11年には柏に移籍し、千葉、大分、水戸、甲府でプレーしてきた中、各クラブで中心選手として活躍し、チーム内からもサポーターからも絶大な信頼を寄せられてきた。

そして今季は8年ぶりに清水に復帰し、ここまでリーグ戦4試合、カップ戦6試合に出場している。

「僕は自分から出ていった選手だから、憎まれたりしているのも覚悟して戻ってきたけど、ファンの方たちと話すと『戻ってきてくれてうれしい』とか『ありがとう』と言ってくれる人がたくさんいて、本当にありがたいと思います。自分の中ではエスパルスには良い思い出しかないし、戻ってこられて本当に幸せです」(兵働)

彼と話していると、そういう言葉を聞いてもまったく優等生発言と感じることがなく、本当に自然体で“いい人”なんだなと伝わってくる。「食事をしていてもロッカールームにいても、ヒョウさん(兵働)はいつもニコニコしているし、気がつくと自然と人が集まっているんですよね」(金子翔太)という面も魅力のひとつだ。

筆者もルーキーの頃から彼と接してきたが、サッカーに関して非常に深い話ができるだけでなく、話の最後にちゃんとオチをつけてくれるユーモアもあり、本当に“使える話”を数多く提供してくれる頭の良い選手という印象もある。

そんな兵働も、出場機会という意味では今季はけっして充実していたわけではないが、試合以外でもチームに貢献できるということを身をもって体現してきた。同じMFの後輩たちも次のように証言する。

「ヒョウさんは練習でのひとつひとつのボールタッチとかにも本当にこだわっているんですよ。パスのちょっとした回転とかバウンドしないようにとか基本的なところをいちばん忠実にやっています。だからこそ本当にうまいし、僕ら若手にもずっと『こだわろう』と言ってくれてます。僕がサッカーで少し考え込んでいたときも、まずすごく話を聞いてくれて、フワッと優しく包んでくれるような中で良い助言もしてくれて、本当に多くのことを学ばせてもらいました」(金子)

「チームをリラックスさせてくれる面もあるし、練習中は厳しい声をかけることもあるし、もちろん選手としても素晴らしい技術を持っているし、何より人間性という面で本当に尊敬できる人だなと。ピッチの外でも中でも良い影響を与えてくれるので、今年ヒョウさんがいてくれて本当に良かったなと思います」(白崎凌兵)

今の清水には伸び盛りの若手が多く、彼らの成長に対して兵働が目に見えないところで大きな役割を果たしていることは間違いないだろう。試合に出ていない選手も含めてチーム一丸となるという意味でも、兵働だけでなく西部洋平や増田誓志らのベテランたちが範を示し、チーム全体のバランスを保ってきたことは非常に大きい。

だからこそ、昨季はギリギリで残留したチームが、今季はヤン ヨンソン監督の下で大きく成長し、現時点で勝点44の7位。サッカーの質や勢いの面から見ても、残り3試合でトップ5入りを十分に狙える状況にある。

その状況は、兵働のプロ2年目の頃と似ている。2005年に低迷を打開するために長谷川健太監督を招聘し、兵働や岡崎慎司をはじめ多くの有力新人を獲得した清水は、同年は世代交代による産みの苦しみで残留争いに巻き込まれたが、年末の天皇杯では準優勝して大きな手応えをつかんだ。そして翌06年にはリーグ戦でも4位に躍進し、07年も4位、08年は5位と上位の常連となり、兵働が在籍していた10年までに天皇杯で2回、ナビスコカップ(現ルヴァンカップ)で1回決勝まで進んでいる。

当時と今の雰囲気が似ていることは、兵働自身も実感していると言う。

「若い選手から中堅、ベテランまで良いバランスで選手がいて、全員が高い意識を持ってやれているし、本当に練習から良い雰囲気でやれているので、それが結果にも表われ始めて、みんな自信を持ってやれていると思います。だから、これを勢いだけでなく、残りの3試合と来年以降でもっと試合巧者になっていければ、また上位争いがつねにできるようなチームになれると思います」(兵働)

引退というのは、彼にとっても「難しい決断」だったが、「1日1日を大切に、今を一所懸命やる」という近年の想いは、今年も清水で全力で表現してきた。だからこそ今はスッキリとした表情を見せているが、ひとつだけ心残りなことがある。

「やっぱりエスパルスでタイトルを獲りたかったというのはありますね。それは後輩たちに託したいと思います。ただね……獲ったら獲ったで、嬉しいけど悔しいという気持ちが出てくるかも(笑)」(兵働)

筆者が出会ってきた中でも、これほど誰からも愛され、尊敬され、信頼され、人望が厚い選手はなかなかいない。だからこそ彼に夢を託された後輩たちは、兵働の姿勢や振る舞いを心に刻み、目標に向けて1日1日を大切にしながら自己研鑽を続けていくことだろう。

文:前島芳雄(清水担当)


明治安田生命J1リーグ 第32節
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